無塩無糖生活20年

Column

高血圧の根本療法:無塩
- 無塩に高血圧、夜間頻尿なし -

無塩無糖20年
「調理加工美味」から「食材自然美味」へ

中尾 正一郎 循環器内科専門医

1. 病気の治療:「原因療法」と「対症療法」

 病気の治療に二通りあります。それは、病気の原因を根本的に治す「原因療法」と原因を治すのではなく症状や病気の状態を良くする「対症療法」です。病気の治療に原因療法があればまず「原因療法」がお勧めです。原因療法がない場合は仕方なく「対症療法」に頼ります。病気の治療は根本的に治す「原因療法」が良いです。

 全ての病気に「原因療法」があるのでしょうか?「原因療法」のない病気がたくさんあります。たとえば風邪です。原因の風邪ウイルスを撃退する「原因療法」はなく、治療は風邪による症状(熱、痛み、咳、頭痛など)を軽くする薬(解熱、鎮痛、咳止め、頭痛薬など)を飲む「対症療法」です。

2. 高血圧の治療:原因療法「減塩」と対症療法「降圧薬」

 さて高血圧ではどうでしょうか?有難いことに原因が分かっています。食塩の摂り過ぎで血圧が上がるのです。塩を摂らないアマゾン奥地のヤノマモ族には高血圧がありません。食塩摂取量が3g/日以下だと高血圧になりません。一方、日本人は8g~15g、もしくはそれ以上食塩を摂っており、高血圧になりやすい食生活です。

 原因療法の「減塩」をしない場合は、対症療法の「降圧薬」に頼ることになります。内服すると薬の働きで血圧が下がります。しかし止めると血圧が上がります。高血圧には「減塩」の原因療法がお勧めです。

 原因療法の良い点は、根本的に治す以外にもう一つ良い点があります。それは予防ができることです。「減塩」をすれば高血圧になりません。「降圧薬」は対症療法であり予防はできず、高血圧になってから使用します。

3. 減塩出来ていますか?

 減塩出来ているか?出来ていないか?を知る簡単な方法があります。それはパンを一口食べて、塩を感じるか感じないかです。実はパン100gに1gの塩が入っています。すなわちパンの塩分濃度は1%です。一口パンを食べて塩を感じる場合は減塩が出来ています。塩を感じない場合は減塩が出来ていません。1%の塩分濃度が分からない人は、普段から塩味の濃い食事をしている人です。薄味の減塩をしている人はパンの塩が分かります。1%の塩分を感じるか、感じないか、が減塩できているか、減塩できていないか、の分岐点です。まず1%の塩分を感じることが出来るように薄味の食事をしましょう。

4. 無塩無糖食のきっかけ

 私(中尾正一郎)は51歳で単身赴任し、お店の弁当・外食の毎日でした。腹に脂肪がついてズボンがきつくなり、血圧も次第に高くなり130/85mmHg以上になりました。 半年経ったある日、一度も自炊をしたことのない宿舎には調味料はなかったのですが、腹が空いたので、フライパンで野菜(もやし、キャベツ)をそのまま炒めました。初めて食べた調味料なしの野菜が意外にも美味しかったのです。体がスーと落ち着いた感じがしたのです。これがきっかけで夫婦で調味料を使わずに料理して食べるようになりました。

5. 51歳までの食事は?

 51歳までの我家の食事は、健康のために食事が偏らないように心がけており、肉も魚も野菜もバランス良く食べることでした。しかし塩分については特に関心が無く、減塩していたわけでもなく、塩っ辛い食事を好んで食べていたわけでもありません。おそらく日本の平均的塩加減の食事でした。家族でしばしば楽しみの外食をしました。ラーメンはこってりコクのある美味しい汁を全部飲んでいました。塩を感じませんでした。御馳走の天ぷらもお寿司も和食や洋食のフルコースもたいへん美味しく、塩味を感じたことはなかったのです。パンもそうです。パン屋さんの前を通ると香しい匂いが店内に導いてくれました。お店のパンが美味しく、塩を感じませんでした。

6. 無塩無糖食のスタート

 今から20年前、私が51歳、家内が46歳、調味料を使わない料理を始めました。調理の過程で塩、砂糖、醤油を使わないで済む方法は何かないか?考えました。あ、そーだ、蒸し料理は良いかも、と思い、台所にほとんど使っていない変形した古い蒸し器があったのですが、デパートで大きい頑丈な蒸し器を新たに買いました。初めのころは、蒸した肉、野菜をそのまま食べるのは味が薄すぎたので、ポン酢を少しかけて食べましたが、次第に薄味に慣れてきて、そのまま食べるようになりました。蒸し器の下の容器に残ったお湯は食材の栄養が混ざり栄養たっぷりの極上スープです。味が薄いので刻みネギや削り節を入れて飲みましたが、慣れるとそのまま美味しく飲めます。蒸すと全ての食材が甘くなります。お砂糖の甘さでなく食材本来のそれぞれの甘さです。

 蒸すだけでなく、食材をそのまま茹で、炒め、焼いてそのまま食べます。肉も魚も美味しいです。我が家の「すき焼」は醤油と砂糖を使いません。素材の味がしてとても美味しいです。

 ふりかけも自分で作ります。市販のふりかけは塩っ辛いからです。煮干し、かつお節、昆布、ごま、を電子レンジで水分を飛ばし、ミルで粉砕して出来上がりです。玄米にかけたり、サラダにかけたり、スープに入れます。たくさん入れます。味が豊かになります。病院に持っていき、病院で昼食時、持参した弁当にたっぷり「ふりかけ」をかけて食べていたところ、後輩の先生が「中尾先生、そんなにふりかけをかけたら体に悪いですよ」と心配してくれました。 

無塩無糖無バターパン

 主食は玄米です。白米と異なり味が豊かです。私たちにとって白米は味がしません。遊びに来た孫に恐る恐る玄米を食べさせたところ、意外にも「美味しい」と言い、その後は一緒に玄米です。

 我家は朝はパンを食べます。しかしパンには塩が1%、砂糖もバターも入っています。 そこでパン焼き機を購入しました。パンに詳しい知人が「塩や砂糖がないと膨らまないよ」言いました。まず塩を抜いて砂糖だけ入れて焼いたところ膨らみました。次に砂糖なしで小麦粉のみで焼きましたが、膨らみました。その後我家では小麦粉だけで焼いています。17年経ちパン焼き機は3台目です。小麦粉だけのパンと市販の食パンと味がどのように違うのでしょうか?我家の小麦粉だけのパンは香ばしい小麦粉の味がします。ところが市販のパンは私には塩っ辛く砂糖や油脂の味が強く、主役の小麦粉の味が分かりません。小麦粉の味がせず、美味しくありません。

中尾パンレシピはこちら

7. 無塩無糖で変った事

 20年無塩無糖を続けて変った事は、(1)胃の場所が分からない:以前は食事で胃の場所が分かりました。今はお腹のどこに入ったのか分かりません。外食すると胃の場所を感じます。おそらく塩分や調味料が胃の粘膜に負担になっていると思います。(2)反芻しなくなった:以前は食後食べ物が胃から口に戻ってきてまた噛み直して飲み込んでいました。それが無くなったのです。胃が嫌がっていたのでしょう。(3)水分摂取が少なくなった:以前は500ccボトルで2本は飲んでいました。今は500ccボトル1本で済みます。 塩分摂取量が少ないので水をたくさん飲まなくて良いのでしょう。(4)夏汗をかいても アマゾン奥地の塩を摂らないヤノマモ族と同じように汗に塩が出なくなり、食塩を摂らなくても済む体質になった。(5)舌が塩や砂糖に鋭敏になった:以前は感じなかったわずかな塩や砂糖が分かるようになりました。

8. 無塩無糖で困ること

 困ったことに、加工食品が食べられなくなりました。食塩が1%以上入っており、塩っ辛いからです。数多くの加工食品が食料品店に溢れています。パンも加工食品です。市販のお弁当を食べられなくなりました。塩っ辛くて、甘すぎて食べられません。強い味が舌に残り水を飲んでも取れません。外食も悩みです。塩味が強いです。いつも家の弁当持参です。カレーでお腹が痛くなり、ラーメンで下痢です。和食にしろ洋食にしろ中華にしろフルコースを食べた後は体が塩揉みされている感じで、喉が渇き家に帰った後もずっとお茶を飲み続けます。旅行も食べるものが限られ悩みです。3日以上外食すると体がきつくなります。

9. 無塩に夜間頻尿なし(no salt no nocturia)

  同級生と会うと皆「夜1回~2回はトイレに排尿に起きる」と言います。私には夜トイレに起きるということはありません。朝までぐっすり眠れます。同級生とどこが違うかと言うと、同級生は「食塩負荷食」ですが、私は「無塩食」です。無塩食のため、私の一日尿量は750ml~950mlで、就寝してから起床するまでの夜間尿量は250ml~300mlです。夜間多尿でないため、排尿で目が覚めることはなく、睡眠時間は7時間前後です。「無塩に高血圧なし(no salt no hypertension)」と同様に「無塩に夜間頻尿なし(no salt no nocturia)」です。

 食塩を摂っている皆様が夜間頻尿になるのは当然と言えます。食塩摂取量が一日10gであれば一日尿量は1500ml前後、もしくはそれ以上になります。それに伴い夜間尿量が500ml以上となるため、どうしても夜1回は目が覚めてトイレに排尿に行くのです。夜間頻尿の回数を減らすにはまず減塩です。夜一度も起きたくなく朝まで熟睡したければ無塩しかありません。

 「高血圧の根本療法は無塩食のみ」と同様に「夜間頻尿の根本療法も無塩食のみです」。

10. 現代生活(食塩糖負荷)から人類本来(無塩無糖)への回帰を

 実は私達は全員生まれてからしばらくの間、無塩無糖の時期があったのです。しかし離乳食から(抵抗も出来ないまま)有塩有糖の世界に入れられたのです。

 私の場合、20年前からいつの間にか無塩無糖になりました。自宅食で一日塩分摂取量は1.6gです。51歳まではおそらく15g以上摂っていたと思います。血圧は96~106/54~64mmHg、HbA1c5.3%です。

 なぜ無塩無糖食が20年も続いているのでしょうか?それは食べる度に美味しくて幸せな気持ちになるからです。それは食材自身の味がして美味しいからです。食材それぞれの甘みを感じます。以前の食事では砂糖の甘さでした。塩、砂糖なしで十分美味しいのです。 

 今から思うと、51歳までの食事は調味料の味で、それを美味しいと感じていまし、加工食品も美味しかったです。「調理加工美味」と言えます。今は食材そのものの味を美味しいと感じています。「食材自然美味」と言えます。

 どちらも美味しいのですが、美味しい中身が違います。ぜひ一度人類本来の食事「食材自然美味」の世界も体験してください。ご褒美に体調が良くなり、調味料で修飾された今の体から、ご両親から頂いた本来の自然な体を生まれて初めて実感出来ます。貴重な体験です。無塩無糖で自分自身の体になり、大事な体を大切に使い、今後の人生をお過ごしください。

無塩無糖食
無塩無糖食

食材自然美味の無塩無糖食

24時間尿食塩排泄量(g/日)
ユリンメートP使用

尿食塩排泄量グラフ

平成27年10月16日~平成28年10月15日(366日間)

自宅食(無塩無糖)

尿食塩排泄量: 0.8g/日~1.9g/日(平均1.6g/日)

調味料、加工食品を全く使用しなくても、肉や魚や野菜の食材の中に食塩が少量含まれており、一日1.0~1.5gほど 食塩を摂っている。(食塩必要量0.2g/日)

外食(有塩有糖)

尿食塩排泄量: 2.0g/日以上になる

外食後、自宅食を続けて1.9g/日以下に戻るのに2~9日(平均4日)かかる

・外食一回3.9g
・外食一日(三食)11.7g

運 動

  • 1)週に3~4回プールで1時間歩行・水泳
  • 2)ゴルフ・山登りやハイキング
  • 3)スキー(60歳から始め全日本スキー連盟3級)

<掲載メディアのご紹介>

  • 『雑誌「血圧」平成31年3月号』に掲載された記事をご紹介します。詳細はこちらをご覧ください→ (PDF)
  • 『南日本新聞』に掲載された記事をご紹介します。詳細はこちらをご覧ください→ (PDF)